所得税法上の所得とは、個人が得た経済的利得のすべてをいい、給与、商売上の利益、配当や利子、財産を貸与、売却による利益など様々な経済的利得や債務免除益など消極財産の減少または消滅も所得税法上の所得となります。また、各種所得の金額の計算上、「収入金額とすべき金額」または、「総収入金額に算入すべき金額」は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない(基通36-1)とされています。
なお、これらの所得は、経済的利得の発生形態によって課税の対象とならないものと、課税の対象となるものに分けられ、課税の対象となるものは、更に所得の内容によって10種類に区分され、その区分された所得ごとに所得金額を計算することとされています。
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「所得税法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判断する。」(基通2-1)とされており、本人の住民登録の有無にかかわらず判断することになっています。
所得税の申告や納税は、納税者の納税地を所轄する税務署で行うこととなっています。ここで納税地とは、納税者が申告、申請、届出および納税などをする基準となる場所または税務署が更正、決定および却下などの処分を行う場合の所轄を定める基準となる場所をいいます。国内に住所または居所を有する納税者の納税地は、その場合に応じ、それぞれ次のように定められています(所法15、16)。
(1) 国内に住所を有する場合…その住所地。ただし、国内に住所のほか居所も有する場合は、住所地に代えて居所地を納税地とすることもできます。
(2) 国内に住所を有せず、居所を有する場合…その居所地。
(3) 国内に住所または居所を有し、かつ、それ以外の場所に事業場などを有する場合…住所地または居所地に代えて、事業場などを納税地とすることができます。
このような、事業場などの所在地を納税地として選択した場合には、納税地とされている住所地または居所地を所轄する税務署長および事業場などの所在地を所轄する税務署長の両方に、住所地または居所地および事業場などの所在地、事業場などの所在地を納税地とすることを便宜とする事情などを記載した届出書を提出しなければならないこととされています(所法16 4.)。
死亡した者(被相続人)の所得税の確定申告書は、原則として相続人の連名(確定申告書付表によります。)により、その死亡した人の死亡当時の納税地の所轄税務署長に提出します。(所令263 2.)。
なお、確定申告書付表には、一緒に申告するかどうかにかかわらず、すべての相続人や包括受遺者(相続を放棄した人を除きます。)の住所、氏名、相続人などの代表者の氏名および相続分、相続財産の価額などを記載することとなっています(所規49)。
心身に加えられた損害に基づいて加害者から受ける慰謝料その他の損害賠償金には、所得税は課税されません(所法9 1.十六、所令30―)。一方、心身に加えられた損害の程度によっては、相当期間にわたり、休職を余儀なくされる場合も生じ、加害者からその休職期間中の収入に見合う金銭を損害賠償金の一部として受領することも考えられます。
例えば、店舗の前の道路工事などで余儀なく休業した場合に、その休業期間中の収益を補てんするために受け取る補償金などは、その経済的成果の実質から、課税の対象として取り扱われています(所令94 1.二)。しかし、同様な経済的成果を伴う補償金などであっても、心身の障害に基因して支払を受ける場合には、その事由の程度などにより、課税の対象からは除外されることとなっています(所令30―かっこ書)。
個人を対象とした所得補償保険は、疾病、傷害により就業不能となったときに、その就業不能期間に応じて計算した保険金額を被保険者に支払う契約のものとなっています。
したがって、事業主自身が、自己を被保険者および保険金受取人とした所得補償保険契約により収入した保険金は、疾病または傷害に基因して受けたものであり、身体の障害に基因して支払を受ける損害保険金として、非課税所得とされますので、事業所得に加える必要はありません(所令30―、基通9−22)。
一方、支払った保険料は、事業主自身を被保険者とする保険契約ですので、「業務について生じた費用」には該当しないことになり、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できません(所法37 1.基通9−22(注))が、損害保険料控除の対象になります(所法77 1.)。
不動産など(土地、建物、土地の上に存する権利、船舶、航空機をいいます。)の賃貸料に係る収入金額は、原則として、契約上の支払日の属する年分の総収入金額に算入することになっています(基通36-5(1))。しかし、不動産などの賃貸借契約において、賃貸料を前払とする事例が多く、支払日基準による計上方法が必ずしも事情に即したものとはいえないので、次のように取り扱うことも認められています(昭48.11.6の直所2-78)。不動産などの貸付けが事業的規模であり、次に掲げる条件のすべてに該当するときは、現金主義の規定(所法67)の適用を受ける場合を除き、その年の貸付期間に対応するものを、その年分の不動産所得の総収入金額に算入することができます。
(1)帳簿書類を備えて継続的に記帳し、その記帳に基づいて不動産所得の金額を計算していること
(2)不動産などの賃貸料に係る収入金額の全部について、継続的にその年中の貸付期間に対応する部分の金額を、その年分の総収入金額に算入する方法により所得金額を計算しており、かつ、帳簿上該当賃貸料に係る前受収益および未収収益の経理が行われていること。1年を超える期間に係る賃貸料収入については、その前受収益、未収収益についての明細書を確定申告書に添付していること
この会計処理は、賃貸料収入のすべてについて、貸付期間対応で計上しないと認められませんので、先払のものだけを貸付期間対応で計上し、後払のものについては支払日基準で計上するといった使いわけはできないことになります。
モータープールなどのように、専ら土地などの不動産の利用によって収益を得ている場合は、それが不動産を単に貸し付けているにすぎない状態であれば不動産所得、また、その不動産がそれで営まれる業務に投下された資本とみられるときは、その業務の規模に応じ事業所得または雑所得として、それぞれ課税関係が生ずることとなります。
モータープールから生ずる所得がいずれの所得になるかは、その考え方に従い、モータープールに利用されている土地の上に新たな「自動車預かり」というサービス業務が営まれているかどうかで見分ければよく、一口にいって、そこに駐車している自動車の管理責任を全面的に負っているかどうかが判定の基準となります(基通27-2)。
つまり、そこに駐車している自動車に破損、盗難などの事故が生じた場合に自動車の持主が被った損害をモータープールの経営者が負わなければならない仕組みになっていれば、それはもはや土地(場所)の貸付けではなく、「自動車預かり業」が営まれていると見られるからです。
保管責任を全うするためには、御質問のように、(1)管理者を置く (2)自動車の出入りを規制する (3)周囲を塀、フェンスなどで囲む (4)夜間は施錠する、などの処置が当然講じられるでしょうから、外観上、このような処置の施してあるモータープールはもはや不動産所得でなく、通常は事業所得として課税されるものと思われます。
このような形態のモータープールであれば、料金の徴収がたとえ月極で行われ、あたかも、地代収入のように見えていても、不動産所得であるとはいえません。
事業所得の計算上、収入に計上する時期は、製品を相手方に引き渡した日によるのが原則です(基通36-8(1))。この原則に従う限り、取引の条件にかかわらず、すべての製品の納入時に売上げとして計上しなければならないこととなります。
ところで、この場合において棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば、出荷した日、相手方が検出した日、相手方において使用収益ができることとなった日、剣針などにより販売数量を確認した日などでその棚卸資産の種類および性質、その販売に係る契約の内容などに応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、その人が継続して収入金額に計上することとしている日によるものとしてもよいことになっています(基通36-8の2)。
雇用契約などに基づいて使用者から支給される成人祝などのための金品は使用者側の一方的な給付ないし贈与ではなく、使用人たる地位に基づき支給されるものと認められますので原則としてその支給を受ける使用人の給与などの収入金額として課税の対象となります(所法36 1.)。
しかしながら、成人を祝う慣行は一般化されており、御質問の成人祝記念品も、いわば、使用者と使用人という関係の下で交付されるものとは、一概にはいえないものと考えられますし、その金額が支給を受ける者と地位などに照らし、社会通念上相当と認められるものについては、強いて課税しなくても差し支えないものとして取り扱われています(基通28-5)。
借地権の更新料は不動産を使用させる対価ですから金銭によって収受する場合はもちろん、物または権利その他の経済的利益によって収受する場合も、課税の対象となります(所法36)。
したがって、借地権の契約更新の対価として受け取ることになる借地権設定の一部解除による利益相当額、すなわち返還を受ける借地権の時価相当額は、返還を受けた年分の不動産所得の収入金額とされるわけです。ところで、更新料の対価として受け取る額が相当多額になっている場合で収受される金銭などの額が引き続き貸し付け土地の更地か価額の2分の1を超えるときは、所得税法施行令第79条に規定する権利金の収受があったものと同様にみて譲渡所得として課税されることになっています(基通26-6)。
なお、更新料として支払った借地権者の課税関係は、その土地がいかなる業務の用に供されているかの区分により、次の算式により計算した額が、その業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されることになります(所令82 1.)。
更に返還した借地権部分については、借地人に対して更新料担当額を基として譲渡所得の課税が行われることになります。
借家を明け渡すことによって受け取る立退料の性質は、おおむね(1)立退きのための費用の弁償 (2)借家権の消滅の対価 (3)事業者の場合の営業補償とに区分することができますが、通常はこれらの性質の2以上が混在することが多く、所得計算に当たっては、その実質に従って立退料の金額を区分しなければならない場合が生じます。
仮に、これらの区分が形式、内容とも明確になったとした場合は、(1)については一時所得、(2)については譲渡所得、(3)については事業所得となりそれぞれ定められた計算方法によって所得金額を計算すればよいことになります(所令95、基通33-6、34-1(7))。
ところで、この区分の方法について、所得税基本通達では、立退料の全額から(2)に相当する金額および(3)に相当する金額を控除した残額をもって(1)に相当する金額とし、これを一時所得として課税対象とする考え方が示されています(基通33-6、34-1(7))。
立退料の金額のうち借家権の対価に相当する金額がどうしても明らかに区分できない場合には、実務上、立退料の全額から、立ち退くために実際に要した費用を控除した残額を借家権の対価とする方法を採ることもやむを得ないものと考えられます。
しかし、借家権については、借家権の取引慣行がある地域においてはその立退料のうち借家権の消滅の対価に該当する金額は譲渡所得に該当しますが、借家権の取引慣行がない地域においては、その金額は一時所得に該当することとなります。
なお、借家権の対価に係る譲渡所得は、土地建物などの譲渡に該当しませんから、総合課税の長期譲渡所得(所有期間5年以下の場合は短期譲渡所得とされます。)として計算することになります。
総合課税の長期譲渡所得は、総収入金額から取得費、譲渡費用を差し引いた残金(譲渡益)に、更に特別控除(50万円または譲渡益のいずれか少ない方の金額)を控除して算出します。また、他の所得と総合するときは、この金額に2分の1を乗じて総所得金額を計算すればよいこととなっていますが、短期譲渡所得の場合には、この2分の1控除は認められません(所法33 3.〜 5.、22 2.二)。
譲渡所得の収入金額の計上時期は、原則として、その基因となった資産の引き渡し日とされています(基通36-12)。
しかし、棚卸資産のように反覆継続して取引される場合と異なり、引渡しの日をもって収入すべき日として画一的に取り扱うこととしなくても課税上さしたる弊害もないことから、納税者が契約の効力発生日により計上した申告書が提出されている場合には、これを認めることとされています(基通36-12ただし書)。
保証債務を履行するため資産の譲渡(譲渡所得の対象となる借地権の設定を含みます。)があった場合において、その履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなったとき、その行使することができないこととなった金額に対応する部分の金額は、譲渡所得の金額の計算上譲渡がなかったものとみなされます(所法64 2.)。
この保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合とは、原則として、資産を譲渡した後、その譲渡代金により保証債務の履行がなされる場合をいい、履行後に資産を譲渡した場合はこれに該当しません。 しかし、資産の買手がなかなか見つからない場合などのように、資産の譲渡により保証債務の履行が先行する場合も少なくありません。
そこで、借入金を返済するための資産の譲渡が、保証債務を履行した日からおおむね1年以内に行われているなど、実質的に保証債務を履行するためのものであると認められるときは、保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合に該当するものとして取り扱われています(基通64-5)。
自己が掛け金を支払っていた生命保険契約の契約期間が満期となり、これによって受領する満期返戻金によって生ずる所得の性格は、利子所得または配当所得に近いものですが、所得税法上これを利子所得、配当所得とする規定はなく、長期の掛金支払に基づく所得が一時に発生したのであり、対価たる性質もないところから、損害保険契約の満期返戻金に対する取扱いと同様、一時所得として取り扱われています(基通34-1(4))。
一時所得の総収入金額の収入すべき時期は、所得の性格上、現実に収入するまでは不確定であるものが多いところから、原則として、その支払を受けた日によることとされています。しかし、一時所得とされるもののうちにも、生命保険契約の一時金のように、あらかじめ契約によって定められている一定事実が生じたときに受けることができるものは、その収入すべき日も、その支払を受けるべき事実が生じた日によることとされています(基通36-13)。
なお、生命保険などの満期返戻金に係る一時所得の金額の計算は、その満期返戻金による収入金額からこれまで支払った保険料または掛金の額(既に受けている剰余金の分配や割戻金の額を差し引いたところで計算します。)を控除し(所令183 2.)、その残額から特別控除(50万円またはその残額のいずれか少ない金額)を差し引いて算出します。
更に、一時所得の金額を他の所得の金額と総合する場合には、その2分の1に相当する金額を他の所得の金額に加え、総所得金額を計算することとなっています(所法22)。
就職に際し、就職先から支給される支度金は、本来、その就職に伴って転居のための旅行をするなどの費用を弁済する性格のものであり、その限りにおいては、その就職者に利益があったとは考えられず、所得税法上も非課税とされています(所法9 1.四)。
ただし、就職者に支給する支度金の額はその就職者が就職に際して支出する費用相当額を超える場合があります。
この越える部分の金額は、各目は支度金であっても、就職者が労務などの提供を約することによって支給を受ける契約金の実質を持つことから、その就職者の取得として課税関係が生ずることになります。
就職者が、その就職先との雇用契約に基づいて雇用後に受ける対価は原則として給与所得になりますが、この支度金は雇用契約を前提として支給されるもので、雇用契約そのものによって支給されるものではありませんから給与所得ではなく、また、一時に受けるものであっても、労務の対価たる性質がある以上一定所得でもなく、更に、委任契約や請負契約に基づいて受ける契約金のように事業所得としての性格もないところから、課税に当たっては、雑所得として取り扱われることになります(基通35-1(11))。
書 名 | 所得税実務問答集 |
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著 者 | 岸本幸治 |
出版社 | (株)清文社 |
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